長続きするコンパ
彼の母親は、仕事を持ちながら家事も育児もこなす、スーパーウーマンだった。
息子の彼も、外でキチンと働き、家事もこなすスーパーハズバンドになった。
男の子は母親に似ると、大変な結婚生活を送ることになるらしい。
彼の職場の後輩が、ウチに泊まりに来たことがあった。
セッセと夕食を作り、片付け、お風呂を入れる夫の好意に、ふんぞり返って甘える私を見て、後輩は顔をしかめた。
「ダンナさんが、かわいそうですよ」私は、ほとんど知らない人からも、非難されねばならないのが情けなかった。
その後輩の意見はもっともとはいえ。
ゴロゴロ妻と働きものの夫。
いかにもうまくいかない夫婦のようだが、私たち夫婦はさほど、家事についてはケンカをしなかった。
例えば、私たちは共働き夫婦にありがちなように、どちらが夕食を作るか、でモメたことは1度もなかった。
夫が毎日、文句も言わず黙々と作ってくれたからだ。
公務員の彼は、平日、夕方6時には帰宅できるけれど、私はたとえ8時間就業でまっすぐ帰宅しても、通勤時間が長いために20時頃になる。
彼が作ったほうが、早く夕食にありつけた。
ある時、イラストレーターをしているバツイチの友人のMチャンが、結婚していた当時を思い出し、私に向かって不満を爆発させたことがあった。
「私は休みの日でも仕事に出ることがあるでしょ。
そんな時も、ダンナは私が帰るのを、ただテレビ見て待ってるの。
妻が食事を作るのが当然って態度で。
疲れて帰っても「遅かったな』だ。
そういうのが続いたら、ウチに帰るのが億劫になっちゃって」Mチャンの元夫は大手証券マン。
夕食を作るなんて、考えたこともなかったんだろう。
かと思えば、元バレーボール日本代表のT選手は、離婚した時、「夫がどんなに遅くなっても、ご飯を作って待ってました。
それが夫には負担だったみたいです。
と、テレビか雑誌かなにかで語っていた。
健気に夕食を作っても気に入らない、作らなくても気に入らないなんて、オトコってもんはつくづくムズカシイ。
ところが、オンナだって、いろいろいるのだ。
夫に炊事をまかせたら申し訳なく思う女性もいるが、私の場合、ホンネを言うと、作って待たれることをだんだん負担に感じるようになった。
アタマでは、「作ってもらえるなんてありがたい」「それを負担?罰当たりめ!」とは、わいっせいに非難を浴びるのだけれど、私だって自分がこんな極悪人とは、結婚前は知らない。
わかっている。
だけど、毎日20時、21時まで夕食にありつけないと、お腹ぺこぺこなんてもんじや、なくなるのだ。
夕方おやつを口にしても、帰る頃にはグーグーグー。
すきっ腹を抱えて電車に飛び乗り2時間半、胃のあたりをカバンで押さえつけて、しのいでいたのだ。
電車に乗る前に、軽く食事しようかと考えたこともあったけれど、作って待っていられると、それも悪いと思ってしまう。
1度、「お腹減るでしょ。
先に食べてて」と、夫に言ったことはある。
だけど、彼はキッパリ、「結婚したんだから、ご飯くらい一緒に食べたい」と、答えたのだった。
くく−、こう言われちゃ、極悪人・NKもこれまで、と思ったね。
しかし、もっと白状すると、作っていただくお食事の中身も、私には葛藤のタネだったのだ。
夫婦は、食事の好みに、多少、違いがあった。
とくに結婚してから、その違いは大きい。
学生時代は私も、コッテリ系もいけた。
けれども、結婚した頃から、コッテリ系はニガテになっていったのだ。
たぶん、年齢のせいだろう。
夫も私と一緒に年をとっているはずなのに、ずっとコッテリ系が好きのままだった。
彼は身体が大きいから、エネルギーがたくさん必要なんだろう。
私だけとっとと受けつけなくなっていった。
私が料理の担当なら、私好みの夕食を作ることもできた。
が、夕食の係は、いつも夫だった。
当然、自分の好みで作る。
私が仕事で疲れ、フラフラになって帰ると、待っているのはトンカッ、焼肉、シチュー。
寝る前にトンカッ。
これはキッイ。
しかし、作ってもらっておきながら、メニューに文句がつけられようか。
ゲンナリして箸がすすまない私。
パクパク、バクバク、私のぶんまで平らげ、日に日にブクブク太る夫。
お父さんの平日の夕食はウチで用意しないと決めていた私の両親は、とりあえず離婚はしない。
夕食は一緒に食べないを、夫婦の基本ルールにすれば、夫婦はうまくいくのかもしれない。
共働き夫婦が、別々のサイフを持っているのは、くつに珍しいことではない。
私たち夫婦も、サイフを別々にしていた。
夫のサイフ、私のサイフ、共同のサイフ、と3種類に分けて。
父はそんなのはおかしい、と横から口を出した。
「サイフをひとつにせん(しない)、なんてことを言うとると、離婚するぞ」予言は当たったが、サイフをひとつにしていれば離婚しなかったか、というとそうでもないだろう。
離婚した夫婦はみんな、サイフを別々にしている、というわけではないのだから。
しかも、父は知らないが、彼の妻もご自分のサイフをこっそり持っていることを、私は知っている。
つまり、公認か、公認じゃないかの違いにすぎないのだ。
ところが、その母に言わせると、「アンタは自分の稼いだお金を、ダンナさんに使われるのがイヤなんやろ。
まるで、守銭奴やということになる。
彼女は、私が夫の稼いだお金を使い放題に使っておきながら、給料は家計にビタ一文提供していない、と思い込んでいるのだ。
「ちゃうよ。
夫婦双方合意の上、や」本当に、夫もサイフを分けることに、大賛成だったのだ。
「ダンナさんは、アンタがうまく丸め込んだんやろ」「違うって。
どうして、そういう発想になるんや」「アンタと20年以上、家族をしてたら、そう考えざるを得ん」まったくの濡れ衣である。
ところで、私たちはなぜ、サイフを別々にしたか。
ひとつには、私が夫のお金を使って食べたり買ったりすることに、違和感があったから、だ。
「おごられると、支配されてるって、屈辱的に感じるとか?」と、男友達に聞かれたことがあるが、たぶん、そういうことではない。
私にかぎらず、一般的に女性は、男性に金銭的負担をかけたからといって、支配されているとは考えないものだ。
そのへんは男性の意識とは、反比例するのかもしれない。
私が夫のお金を使えなかったのは、たぶん、学生時代からつきあってきた夫婦だからだろう。
学生同士のカップルはたいてい、ビンボーだ。
食事などのデートは基本的にワリカン、というのも珍しくない。
相手のふところに最初から期待していないから、それで不満もない。
むしろ、相手にお金を使わせてしまうと悪いな−と、遠慮するのだ。
私も仕事をしていたからかもしれないし、夫が公務員だったからかもしれない。
働きつぶりが給与に反映しない以上、給与明細を毎月チェックし、お尻を叩く楽しみはない。
もしも夫が、プロの野球選手かなにかだったら、働きつぶりだけでなく、球団との交渉にも良妻ぶりを発揮してあげたところだ。
だから、結婚してからも相手におごらせたり、相手のお金を消費することに、なかなか慣れることができない。
もしかして、男性は女性におごって当然という雰囲気があるのは、こういう未来を避けるためなのか?結婚前から、オトコにおごらせることで、オンナは相手のオトコのお金を使う練習をしているのか。
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